星読み

言葉を編む舟に乗って ーー『舟を編む』三つのバージョンを観て

aromastar

今回は、ちょっと趣向を変えてエッセイ風な文体にしました。
とても主観的な感想なので、その辺は、大目に見てくださいね(笑)


『舟を編む』三つのバージョンを観て

辞書を編纂する。

その響きだけを取り出すと、なんと地味で、忍耐のいる仕事だろうと思う。

しかも十年、二十年という単位で時間をかけて、一冊の分厚い本をつくる。

そこには派手な場面も、目を見張るアクションもないはずなのに――。

その作業を「物語」として立ち上げ、観る者の心を動かすことができる。

それこそが『舟を編む』のすごさであり、
愛され続けている理由だと感じた。

私は映画、ドラマ、そしてアニメと、三つのバージョンすべてを観た。

同じ題材を扱っていても、それぞれに表情が異なり、
どれもが静かに胸を打ってくる。

観終えたあと、
心に灯るのは派手な感動の火花ではなく、
じんわりと広がるぬくもり。
湯呑みを両手で包み込んで、
縁側でほうじ茶をすするような幸福感だった。


映画の朴訥とした余韻

最初に観たのは数年前、映画版だった。

松田龍平さん演じる主人公・馬締が、不器用ながらも言葉に誠実であろうとする姿に引き込まれる。

全体の色調は落ち着いていて、派手な演出はない。

けれどその「淡々さ」が、むしろ人の機微をじっくりと照らし出すのに効果的だった。

辞書をつくる作業は、膨大なカードとにらめっこし、ひとつひとつの言葉を吟味する地道な時間の積み重ねだ。(映画をみて初めて知った事実!)

けれどその姿は退屈ではなく、むしろ「言葉の背後にある人の思い」を大切に紡いでいるように見える。

映画全体を包む静けさは、まるで月明かりに照らされた海のよう。

波は静かに寄せては返し、きらめきがただ広がっていく。

観終わったあとに残るのは、派手な高揚感ではなく、透明な余韻だった。


ドラマが見せる多角的な視点

その後、ドラマ版を観る機会があった。(最近の再放送)

実は最初の放送のときは「映画を観たから、同じような内容だろう」と思って見逃していた。

けれど昨年の好評の声を耳にし、今年の再放送で録画して観てみたのだ。

結果、観て本っ当に良かったと思う。

ドラマは、映画と同じ物語をなぞるのではなく、登場人物たちの年代や視点を変えることで、多角的に物語を深めていた。

主人公は、池田エライザさん演じる、岸辺みどり。

主人公だけでなく、それを取り巻く人々が「辞書」という大海原にどう向き合い、どう航海していくのか。

それぞれの視点が織り込まれることで、物語はより重層的になっていた。

印象的だったのは「なんて」という言葉を軸にした回。
言葉の使い方ひとつで、伝わるニュアンスも、受け止められ方も大きく変わる。

それを真剣に議論し、言葉の奥にある人の心を探っていく姿勢に、胸を打たれた。
最後の方の「なんて」の伏線回収は、気分が良かった。

他の伏線回収も心地よかった。

「迎えに来たよ」というシンプルな言葉に託された思いが、静かに心に染み込んでいく。

さらに、水木しげるさんのくだりで「ゲゲゲの女房」で水木しげるさんを演じた向井理さんが関わったり、映画版の松田龍平さんがカメオ出演していたり。

そうした小さな「つながり演出」に、思わずくすりと笑ってしまった。
こういうの、「大好物」

加えてドラマでは、辞書に使う「紙」へのこだわりや、出版社ごとの「カラー」といった舞台裏も丁寧に描かれていた。

地味に見える要素に光をあててくれることで、辞書づくりが単なる言葉の集積ではなく「美意識や哲学の表現」でもあることを感じられた。

そのあたりの描写は、私の知的好奇心を大いにくすぐってくれた。

そして心に残ったのは、ある登場人物のセリフだ。

「好きでもない仕事でも、突き詰めていくうちに好きや達成感が生まれてくることもある。」
(うろ覚えで申し訳ないが、こんな意味合いのセリフだったと思う)

この言葉は、画面を超えて私自身の胸にもすとんと落ちてきた。

仕事も人生も、最初から情熱を注げることばかりではない。

けれど続けていくうちに、見えてくる景色がある。

その言葉が、静かな励ましのように響いた。


アニメの声が伝えるもの

三つ目に観たのはアニメ版だった。

ストーリーは映画と大きくは変わらない。

けれど声優さんたちの「声」だけで伝える表現には、また別の味わいがあった。(ヘッドフォンで聞いたからかな、笑)

セリフの「間合い」の取り方。

わずかな沈黙やためらいが、言葉の重みをいっそう深めている。

また、映像は手元の作業や細かな動きにフォーカスすることもあり、
そこから滲み出る感情を、観る側が自然に掬い取れる。

映画を観ていたからこそ感じられる共鳴もあって、三つ目に観た順番がちょうど良かったのかもしれない。

「舟を編む」という作品が3方向から描かれることで、より立体的に感じられた。


言葉という舟に揺られて

三つのバージョンを通して思うのは、「辞書づくり」という一見地味な営みを、これほど豊かでドラマチックな物語に昇華させたことへの驚きだ。

言葉をひとつひとつ編み込み、海を渡る舟をつくるように、時間をかけて未来に手渡していく。

そこには人の成長もあれば、挫折や葛藤もある。

そして、観終えた私の心に残ったのは、
人生の大海原に漕ぎ出すための静かな勇気と、
言葉を誰かに手渡すことの温かさだった。

思えば、私たちが日々使う言葉もまた、小さな舟だ。

相手にうまく届かずに波間に消えることもあるけれど、
ときに相手の心にすっと寄り添い、
明かりとなって照らしてくれることもある。

『舟を編む』は、そんな言葉の持つ力を改めて思い出させてくれる作品だ。
観ていると、爽やかな高原の水を飲んだような、
縁側で夏の夕暮れにほうじ茶をすするような、
そんなほっこりとした幸福感に包まれる。

月明かりに煌々と照らされてゆらめく静かな海をずっとみているような。
そんな幸せな気持ちにさせてくれる、お気に入りの作品。

Oğuzhan EDMANさん撮影 O -DANよりDL


そして私自身もまた、


「星読み」で言葉を紡ぎ、
人に渡すことを生業としている。

言葉は、相手の人生を照らす灯火になることがある。

だからこそ、この作品から学ぶことはとても多かった。

仕事とは何か、
どうやって向き合えばよいのか迷っている人にこそ、
この物語をおすすめしたい。

辞書を編むように、
ひとつひとつの時間や経験を編み込んでいくことが、
やがて自分だけの人生を漕ぎ出す、舟をつくるのだと思う。


あとは、小説を読もうかな。(すみません、コンプリートしてないですね)

ABOUT ME
碧亜紀 アオアキ
碧亜紀 アオアキ
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屋久島に住んで29年。『屋久島パーソナルエコツアー』をパートナーと主宰。 ★星読み師★アロマセラピスト ★上級心理カウンセラー★リトリートガイド ★認知症予防のためのアロマヘッドトリートメントトレーナー ☆子育て経験と、「年の功」があるので、特に女性の悩み相談、話し相手にピッタリです(^^)☆
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